哀れなハインリヒ (Der arme Heinrich)

こんにちは☆

松浦です。

ドイツはやっとクリスマスツリーも回収され

お花屋さんや雑貨屋さんには早くも春のグッツが

並び始めました。

イースターグッツはこれからどんどん出てくるので

かわいいウサギやヒヨコのお菓子にわくわくさせてもらえる
季節の到来です♪



別件ですが、今日は
お馴染みインゼル文庫450番のご本を新たに登録いたしました。






”こんな子供の落書きみたいな絵
何なの?”

と思われる方もいらっしゃると思います。
この本は実はとても深いのですが
中の、1ページを今日はご説明したいと思います。

長文ですので、
お時間のある方にお読みいただければと思います。


あるドイツの詩人の作品で
こんなお話がございます。
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”哀れなハインリヒ”

ハインリヒは姿が美しく
、立ち居振る舞いは礼儀作法に適って、領民に慈悲を与える、非の打ち所のない騎士であった。

その名声はあまねく各地に響き、騎士に望まれる限り欠けるものとてなかった。

しかし彼は、あまりに欠けるところのない生活につい増長の心が芽生え、神罰により業病(ハンセン病)にかかり、その体は徐々に蝕まれてゆく。

それまでハインリヒに忠実であった人々も、彼が呪われた病にかかったのを知ると掌を返したように彼を見捨ててしまった。

なんとしても生きたいと願った彼は必死に治療法を探し、ついに名医からその方法を教えられる。

それは、

自ら命を捧げる穢れなき処女の心臓の生き血を全身に浴びるべし、という忌まわしいものであった。

あきらめたハインリヒは世から隠れて、
なおも彼への忠義を失わない一農家で不治の病人として養われるが、ある時そこの主人に問われて治療法を話したのをその家の娘が聞いた。

娘は命を捧げてハインリヒの病を癒したいと願い、両親に訴える。

両親は強く反対したが、
娘は精霊が乗り移ったかのごとく懸命に説得し、親たちもその純真な宗教的熱意に負けて許した。

ハインリヒもその申し出を戸惑いながらも受け、娘を連れて、治療をしてくれる名医の所に行く。

医師は、娘が自らの志で命を捨てようと願っているのを確認すると、彼女を裸にし、その心臓を切り出そうとするが、ハインリヒは娘の姿の美しさに心を打たれ、罪のない乙女を犠牲にして生き延びようとした自らの愚かさを深く悔恨して治療を中止させた。

娘は激しい宗教的情熱ゆえ、ハインリヒを非難さえするが、彼は娘を連れて帰路につく。

その時、忌わしい病は神の御手によって
すっかり癒されたのだった。
ハインリヒは並ぶ者の無い騎士として立ち直り、
娘を妻に迎えて、二人は幸福に生きて天の定めた命を全うし、
共に天国に迎えられた。

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このお話は
中世ドイツの詩人ハルトマン・フォン・アウエ氏
(12−13世紀)
の代表作です。

ハルトマンの伝記によれば、彼自身は詩人であり
騎士でもあったのだそうです。
読み書きもままらないのが通常であった時代
学識豊かであったハルトマンの
文体は”水晶”に例えられるほど
硬質で純粋な美しさを持っている
と、称えられたそうです。


そういう前触れがありまして、
上の挿絵になっている騎士が
そのハルトマンです...

詩人達の死後100年以上後もたってから、
マネッセ写本という
中世盛期のドイツの代表的な140人の宮廷詩人の詩歌を収録したコデックス彩飾写本がつくられ
初版は19世紀に登場しました。

本書インゼルの450番は
その一部の複製になっております。

各挿絵の上に
名前が書いてありますので、
同情人物ひとりひとりに語り継がれる
様々な背景をたどってみるのも
本書の楽しみ方のひとつかなと
思います。